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MrBeastが銀行アプリ「Step」を買収|YouTuber初のフィンテック参入が示すクリエイターエコノミーの未来

公開日
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MrBeastが銀行アプリを買収——YouTuberがフィンテック企業のオーナーになる時代

「チャンネル登録者が3億人を超えたら、次は何をする?」

この問いに対するMrBeast(ジミー・ドナルドソン)の答えは、動画でも商品でもなかった。銀行アプリの買収だ。

2026年2月9日、MrBeastが率いるBeast Industriesは、10代〜若年層向けの銀行アプリ「Step」の買収を発表した。YouTuberが金融サービス企業を買収するのは、クリエイター業界で前例のない動きだ。

この記事では、MrBeastのStep買収の背景と狙いを分析し、クリエイターエコノミーの次のフェーズがどこに向かっているのか、そして日本のクリエイターが今から準備すべきことを解説する。


MrBeastとは何者か——数字で見る世界最大のクリエイター

MrBeastの名前を聞いたことはあっても、その規模感をつかんでいない人は多い。

チャンネル規模

  • YouTube登録者数: 3億4,000万人超(2026年2月時点、全チャンネル合計)
  • 月間再生数: 約20億回
  • 運営チャンネル数: 8チャンネル(英語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、日本語ほか)

ビジネス規模

  • Feastables(チョコレートブランド): 年間売上推定5億ドル超
  • Beast Burger(バーチャルレストラン): 全米1,700店舗以上で展開後、2024年に事業再編
  • Beast Industries: コンテンツ制作、ブランド管理、投資を統括する親会社

MrBeastは「YouTuber」という枠をとうに超え、メディアコングロマリットの経営者として動いている。Step買収は、この流れの延長線上にある。


Step(ステップ)とは?——10代向け銀行アプリの全容

サービス概要

Stepは2020年に設立された、10代と若年成人をターゲットにしたフィンテックスタートアップだ。

項目詳細
サービス開始2020年
主なターゲット13歳〜25歳
主要機能デビットカード、送金、貯蓄、金融教育
累計ユーザー数推定数百万人
特徴口座維持費無料、保護者管理機能、信用スコア構築支援

なぜStepが注目されていたのか

従来の銀行は、10代の口座開設に消極的だった。理由は単純で、10代は儲からない顧客だからだ。口座残高は少なく、ローンも組めず、手数料収入も見込めない。

Stepはこの「見捨てられた層」にアプローチした。

  1. 親子で使える管理機能: 保護者がリアルタイムで利用状況を確認
  2. 金融リテラシー教育: アプリ内で貯蓄や予算管理を学べるコンテンツ
  3. 信用スコアの早期構築: 米国では信用スコア(クレジットスコア)が人生を左右するため、10代から構築できることが大きな価値
Stepのビジネスモデルのポイント - 口座手数料ゼロで若年層を獲得 - デビットカード決済の加盟店手数料で収益化 - 長期的に「生涯顧客」として囲い込む設計

なぜMrBeastはStepを買収したのか——3つの戦略的意図

1. ファン層との完全な一致

MrBeastの視聴者層は13歳〜24歳が中心だ。Stepのターゲット層と見事に重なる。

「自分の視聴者が最も必要としている金融サービスを、自分で提供する」——これがMrBeastの基本戦略だ。

広告主にファンを「売る」のではなく、ファンが実際に使うプロダクトを所有する方向にシフトしている。

2. クリエイターからプラットフォームオーナーへ

MrBeastのビジネス展開には一貫したパターンがある。

段階展開具体例
第1段階コンテンツ制作YouTube動画
第2段階ブランド展開Feastables(お菓子)
第3段階プラットフォーム所有Step(金融アプリ)

動画で稼ぐ→商品で稼ぐ→インフラで稼ぐ

この進化は、単なるクリエイターの多角化ではない。視聴者との接点を「コンテンツ消費」から「日常生活のインフラ」にまで広げている。

3. 「クリエイターバンク」という新概念

MrBeastがStepを買収した文脈で注目すべきは、2025年末に同じくBeast IndustriesがViewStatsというYouTube分析ツールを買収していた点だ。

  • ViewStats: クリエイター向けのYouTube分析ツール
  • Step: 若年層向け金融アプリ

この2つを組み合わせると、「クリエイター向け金融サービス」という新たな市場が見えてくる。

クリエイターは収入が不安定で、従来の銀行から融資を受けにくい。広告収入は月ごとに変動し、企業案件は予測が難しい。こうしたクリエイター特有の課題を、分析データと金融サービスの組み合わせで解決できる可能性がある。

クリエイター金融の課題 米国では約5,000万人がクリエイターとして収入を得ているが、その多くは従来の銀行サービスが想定する「安定収入のある会社員」のプロファイルに合致しない。クリエイターに特化した金融サービスは、巨大な市場機会となり得る。

クリエイターエコノミーの構造変化——「コンテンツ」から「インフラ」へ

MrBeastのStep買収は、クリエイターエコノミー全体のトレンドを象徴している。

従来のクリエイターの収益構造

これまでのクリエイターの稼ぎ方は、大きく3つだった。

  1. プラットフォーム収益: YouTubeの広告収入、Twitchのサブスクリプション
  2. スポンサーシップ: 企業案件、ブランドタイアップ
  3. 自社ブランド: グッズ販売、D2Cブランド

新しいクリエイターの収益構造

トップクリエイターは、これに加えて第4の収益源を構築し始めている。

  1. プラットフォーム・インフラ所有: 自分の視聴者が日常的に使うサービスを所有・運営する

MrBeastだけではない。海外では複数のクリエイターがこの方向に動いている。

クリエイター従来ビジネスインフラ型ビジネス
MrBeastFeastables(お菓子)Step(銀行アプリ)
Logan PaulPRIME(エナジードリンク)格闘技イベント運営
Emma ChamberlainChamberlain Coffeeライフスタイルブランドの統合プラットフォーム
Markiplier従来のグッズ販売Iron Lung(映画制作スタジオ)

共通点は、コンテンツの外側にある「生活の接点」を押さえていることだ。


日本のクリエイターが学ぶべき5つのポイント

1. 「視聴者は顧客候補」という視点を持つ

多くの日本のクリエイターは、視聴者を「ファン」として見ている。それ自体は間違いではないが、MrBeastは視聴者を「自分のプロダクトを必要としている人々」として捉えている。

視聴者が何に困っているかを考え、それを解決するサービスを提供する。この発想は、チャンネル規模に関係なく応用できる。

2. 広告収入依存からの脱却を計画する

YouTubeの広告収入だけに依存するのは、プラットフォームのアルゴリズム変更一つで収入が激減するリスクがある。

MrBeastの収益ポートフォリオを見ると、YouTube広告収入が全体に占める割合は推定20%以下だ。残りはFeastables、企業案件、そして今回のような事業投資から得ている。

小規模チャンネルでも、以下のステップで多角化を始められる。

  1. すぐにできること: メンバーシップやスーパーチャットの導入
  2. 今月中にやること: 自分の専門性を活かしたデジタル商品(テンプレート、ガイド等)の作成
  3. 半年以内にやること: 小規模でもD2C商品やサービスの立ち上げ

3. ファンのライフスタイル全体を見る

Step買収の本質は「金融事業への参入」ではない。視聴者のライフスタイル全体をカバーするという思想だ。

動画を見る→お菓子を食べる→お金を管理する。MrBeastは視聴者の生活動線のあらゆるポイントに自分のプロダクトを置いている。

日本のクリエイターでも、たとえばゲーム配信者がゲーミングデバイスブランドを立ち上げたり、料理系YouTuberが食材ECを運営したりする動きは十分にあり得る。

4. 「信頼」を最大のアセットとして扱う

MrBeastがStepを買収できたのは、3億人のファンとの信頼関係があるからだ。この信頼は広告よりも価値がある。

信頼を維持するためには以下が不可欠だ。

  • 自分が使わない商品を勧めない
  • スポンサーシップの透明性を確保する
  • ファンの利益を最優先にするプロダクト設計

信頼を切り売りして短期的に稼ぐクリエイターは多い。MrBeastは信頼を投資して長期的なビジネスを構築している。

5. テクノロジーとクリエイティビティの融合

ViewStats(分析ツール)とStep(金融アプリ)の買収は、テクノロジー企業としてのBeast Industriesの側面を強く示している。

日本のクリエイターも、AIツール、分析ツール、自動化ツールへの投資を惜しまないべきだ。具体的に言えば:

  • YouTube Studioのアナリティクスを毎週確認する習慣
  • AI編集ツールでワークフローを効率化する
  • ファンデータを分析して、何が求められているかを把握する

テクノロジーを使いこなせるクリエイターとそうでないクリエイターの差は、今後ますます広がる。

  • プラットフォーム依存度が大幅に低下する
  • ファンとの接点が増え、エンゲージメントが深まる
  • 収益の安定性が飛躍的に向上する
  • 大規模な資金が必要(個人レベルでは小規模から始めるのが現実的)
  • 金融規制など専門知識が必要な領域がある
  • コンテンツ制作とビジネス運営の両立は負荷が大きい

クリエイターエコノミーの次の10年——何が起きるか

MrBeastのStep買収は、今後のクリエイターエコノミーを予測する手がかりになる。

短期(1〜2年)

  • トップクリエイターによるテック企業買収が加速
  • クリエイター向け金融サービスの市場が拡大
  • YouTube以外のプラットフォーム(TikTok、Twitch)でも同様の動きが発生

中期(3〜5年)

  • クリエイターが設立した企業のIPO(株式公開)
  • クリエイター発のフィンテック、EdTech、HealthTechの登場
  • ファンコミュニティのDAO(分散型自律組織)化

長期(5〜10年)

  • クリエイターエコノミーが「エコノミー」の一部ではなく、経済の主要セクターに成長
  • クリエイターがVCから出資を受けるのではなく、クリエイター自身がVCになる
  • 「コンテンツクリエイター」から「コミュニティCEO」への肩書き変化

実践:今日から始める3ステップ

MrBeastの規模感に圧倒される必要はない。大切なのは、同じ思考フレームワークを自分のスケールで実践することだ。

  1. すぐにできること: 自分の視聴者が日常的に何に困っているかをコメント欄やアンケートで調査する(所要時間15分)
  2. 今週中にやること: YouTube Studioで視聴者の年齢層・地域・視聴デバイスを確認し、ファン像を具体化する
  3. 継続すること: 毎月1つ、コンテンツ以外の収益源のアイデアを考えてメモに残す。半年後に最も実現可能なものから着手する

まとめ

まとめ

この記事のポイント - MrBeastが10代向け銀行アプリ「Step」を買収し、YouTuber初のフィンテック参入を果たした - クリエイターの収益モデルが「コンテンツ→ブランド→インフラ」へと進化している - 日本のクリエイターも視聴者のライフスタイル全体を見据えたビジネス設計が求められる時代に突入した

今日からできること: 自分の視聴者が「コンテンツの外」で何を必要としているかを考え、1つだけメモに書き出してみてください。


よくある質問

MrBeastが買収したStepは日本で使えますか?
現時点ではStepは米国限定のサービスです。日本での展開については発表されていません。
小規模なクリエイターでもMrBeastのような多角化は可能ですか?
規模は異なりますが、考え方は同じです。デジタル商品の販売やコミュニティ運営など、小さな一歩から始められます。
クリエイターが金融事業に参入するリスクは?
金融規制への対応、信頼失墜のリスク、本業(コンテンツ制作)との両立が主な課題です。専門家との連携が不可欠です。

この記事を書いた人

TK

モリミー

Webエンジニア / テクニカルライター / マーケター

都内で働くWebエンジニア。テクニカルライターをしています。 映画やゲームが好きです。

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