
【賃貸でもOK】防音室なしで実現する「宅録」環境構築ガイド|吸音・遮音の工夫と機材選び
はじめに:防音室なんて買えない!でも良い音で録りたい

「歌ってみた」や「ナレーション」、「ゲーム実況」を始めたいけれど、防音室(数十万円〜)なんて買えないし、賃貸だから工事もできない。
そんな悩みを持つクリエイターは多いはずです。 録音してみたら「お風呂場みたいに響いている」「エアコンの音がうるさい」「隣の部屋の生活音が入っている」...そんな経験はありませんか?
しかし、諦める必要はありません。「吸音」と「マイク選び」を工夫すれば、普通の部屋でもスタジオに近い音質は作れます。
本記事では、総文字数1万字を超えるボリュームで、賃貸でも実践できる「宅録環境構築」のすべてを解説します。0円でできる工夫から、プロ御用達の機材選びまで、これを読めばあなたの部屋がスタジオに変わります。
基礎知識:「吸音」と「遮音」の違い
まず、防音における2つの重要な概念を理解しましょう。ここを混同していると、無駄な出費をしてしまいます。

1. 吸音(Sound Absorption)
音の反射を吸収し、部屋の響き(リバーブ)をなくすことです。
- 目的:録音音質を良くする(クリアな声にする)。
- 材料:スポンジ、ウレタン、布団、服、カーテン。
- 賃貸での実現度:★★★★★(簡単にできる)
2. 遮音(Sound Insulation)
音を遮断し、外に漏らさない・外の音を入れないことです。
- 目的:近所迷惑防止、環境音の遮断。
- 材料:石膏ボード、遮音シート、鉛、コンクリート。
- 賃貸での実現度:★☆☆☆☆(非常に難しい)
結論:賃貸宅録では「遮音」は諦めて(または妥協して)、「吸音」を極めるのが正解です。 遮音は物理的な質量が必要なため、賃貸でDIYレベルでやるには限界があります。しかし、吸音は工夫次第でプロスタジオ並みに近づけることができます。
方法1:最強の0円対策「クローゼットスタジオ」
最も手軽で効果が高いのが、ウォークインクローゼットや押し入れの中で録音することです。

なぜ音が良くなるのか?
クローゼットに掛かっている大量の服が、最高級の吸音材として機能します。服は多層構造の繊維であり、音波を複雑に乱反射・吸収してくれます。特に冬物のコートやニット類は吸音効果が抜群です。
クローゼットスタジオ構築ステップ
- スペースの確保: クローゼットの中に、自分が立ち(または座り)、マイクスタンドを立てるスペースを作ります。
- 服の配置: 自分の背後と左右に服が来るように配置します。マイクに向かって声を出すと、背後の壁に音が跳ね返り、それがマイクに入ります。背後に服があることで、この反射を防げます。
- マイクの設置: 服に向かって歌うのではなく、服を背にして歌うのが基本ですが、クローゼットの場合は全方位が服なので、マイクを中央に置けばOKです。
- 機材の引き込み: PCはクローゼットの外に置きます(ファンの音を入れないため)。長いXLRケーブルやUSBケーブルを使って、マイクだけを中に引き込みます。
- 照明の確保: 暗いと譜面や歌詞が見えないので、クリップライトなどを導入しましょう。
注意点
- 熱中症に注意:夏場は地獄のような暑さになります。こまめな休憩が必要です。
- 酸欠に注意:密閉空間なので、換気を忘れずに。
- 照明ノイズ:安物のLEDライトは「ジー」というノイズを出すことがあります。撮影用や読書用のしっかりしたものを選びましょう。
メリット:0円、効果絶大。
デメリット:暑い、暗い、狭い。
方法2:リフレクションフィルターの導入
デスクで録音したい場合や、クローゼットに入れない場合は、マイクの周りを囲う「リフレクションフィルター」が必須です。

効果と仕組み
マイクに入る「部屋の反射音」を物理的にカットします。特に、モニター画面や壁からの跳ね返りを防ぐのに有効です。 図のように、声(直接音)はマイクに入りますが、部屋の壁に当たって跳ね返ってきた音(反射音)はフィルターがブロックしてくれます。
選び方のポイント
- サイズ: 大きければ大きいほど効果が高いですが、視界が悪くなり、マイクスタンドへの負担も増えます。
- 重量: 重すぎると安価なマイクスタンドでは支えきれず、倒れてしまいます。軽量なものを選ぶか、頑丈なスタンドを用意しましょう。
- 素材: 多層構造になっているものがおすすめです(ウレタンだけでなく、フェルトや空気層があるもの)。
おすすめ製品
- SE Electronics RF-X:定番中の定番。軽量で効果が高い。(約1.2万円)
迷ったらこれを買っておけば間違いありません。 - Classic Pro CAR900:コスパ最強。サウンドハウスのPB商品。(約6,000円)
予算を抑えたい人向け。機能は十分です。 - TroyStudio ポータブルレコーディングボーカルブース:箱型で全方位を囲うタイプ。効果は高いが見た目の圧迫感がある。(約5,000円)
見た目を気にしないなら、これが最も「デッド」な音を作れます。
方法3:賃貸でもできる「壁」対策
壁からの反響を抑えるために、壁に吸音材を貼ります。しかし、賃貸では接着剤やネジは使えません。

虫ピン・マスキングテープ活用法
軽量なウレタンスポンジなら、マスキングテープを壁に貼り、その上から強力両面テープで貼ることで、壁紙を傷つけずに設置できます。
また、虫ピン(極細の針)を使えば、穴が目立たないので退去時のトラブルになりにくいです(※物件によります)。
おすすめの吸音材
- ウレタンスポンジ: 安価で軽量。高音域の吸音に効果的。「SONEX」などが有名ですが、Amazonの安価なものでも量は質を凌駕します。
- ポリエステル繊維パネル: 「吸音フェルトボード」などと呼ばれます。硬めで見た目がおしゃれ。断熱効果もあります。虫ピンで留めやすいのが特徴です。
吸音材の配置テクニック
壁一面に貼る必要はありません。以下のポイントに絞って貼るだけで、効果の8割は得られます。
- マイクの正面:歌っている自分の目の前の壁。
- 自分の背後:マイクが向いている方向の壁(ここが一番重要)。
- 左右の一次反射点:手鏡を持って壁に沿って移動し、スピーカーや自分の口が見える位置。
方法4:隙間を埋める(簡易遮音)
音は「空気の隙間」から漏れます。ここを塞ぐだけで、多少の遮音効果があります。

ドアの隙間対策
ドアの周りには数ミリの隙間があります。ここから音が漏れ、外の音が入ってきます。 100均やホームセンターで売っている「隙間テープ(モヘアタイプやゴムタイプ)」をドア枠に貼りましょう。
ドア下の隙間
ドアの下は換気のために大きく空いていることが多いです。「ドア下ストッパー」や、単純に「丸めたタオル」を置くだけでも効果があります。
窓の対策
窓は壁に比べて圧倒的に薄いため、音の出入り口になります。
- 防音カーテン:重くて厚手のものを選びましょう。ヒダが多いほど吸音効果も高まります。
- プラダン(プラスチックダンボール):窓枠サイズにカットしたプラダンをはめ込むだけでも、二重窓のような効果が得られます。
方法5:床と天井の対策
壁だけでなく、床と天井も大きな反射面です。特にフローリングの床は音を激しく反射させます。
床:ラグやカーペットを敷く
厚手のラグ、毛足の長いカーペットを敷くだけで、部屋の響きは劇的に落ち着きます。 特にマイクスタンドの下には必ず敷きましょう。床からの振動ノイズ(足音など)をマイクに伝わりにくくする効果もあります。
天井:突っ張り棒で布を吊るす
天井への対策は難しいですが、突っ張り棒を使って天井付近に布(シーツや薄手の毛布)をふんわりと吊るす「雲(クラウド)」を作ると効果的です。 見た目は少し怪しくなりますが、天井からの反射音を散らすことができます。
最重要:マイク選びの正解
防音室がない環境では、マイク選びが命運を分けます。
❌ コンデンサーマイク(例:AT2020, Blue Yeti)
- 特徴:感度が高く、繊細な音まで拾う。高音域がきらびやか。
- 宅録での欠点:エアコンの音、PCのファン音、外の救急車の音、部屋の反響音まですべて拾ってしまう。
- 結論:静かな環境が用意できないなら避けるべき。
⭕ ダイナミックマイク(例:SM58, MV7, SM7dB)
- 特徴:感度が低く、マイクの目の前の音しか拾わない。耐久性が高い。
- 宅録での利点:環境ノイズに圧倒的に強い。部屋鳴りも気になりにくい。
- 結論:宅録の救世主。
おすすめダイナミックマイク詳細比較
| 製品名 | 価格 | 特徴 | おすすめユーザー |
|---|---|---|---|
| Shure SM58 | 約1.3万円 | 世界標準のボーカルマイク。頑丈でハンドノイズにも強い。オーディオインターフェース必須。 | 歌ってみた初心者、ライブ配信者 |
| Shure MV7+ | 約4.5万円 | USB接続可能。専用アプリでオートレベル調整ができる配信者向け最強マイク。ポッドキャストモードが優秀。 | ゲーム実況者、ポッドキャスター、設定を楽にしたい人 |
| Audio-Technica AT2040 | 約1.2万円 | ハイパーカーディオイドで周囲の音を強力にカット。見た目も放送局っぽくて良い。 | 予算を抑えたい実況者、ラジオ配信者 |
| Shure SM7dB | 約7.7万円 | プロスタジオの定番SM7Bにプリアンプを内蔵。圧倒的にリッチな低音とクリアな高音。 | 本気でプロを目指す人、予算に余裕がある人 |
| Sennheiser e935 | 約2.2万円 | SM58より高音域がクリアで抜けが良い。女性ボーカルにおすすめ。 | 歌い手(特に高音重視)、女性 |
オーディオインターフェースと設定
良いマイクを買っても、設定が間違っていると台無しです。
ゲインステージング(音量調整)
最も多い失敗が「ゲインの上げすぎ(音割れ)」か「下げすぎ(ノイズまみれ)」です。
- 一番大きな声を出したときに、メーターが赤くならない(0dBを超えない)ように設定します。
- 理想は、ピーク時で -6dB 〜 -12dB 付近になるように合わせます。
- 波形編集ソフトで見ると、波の高さが全体の7〜8割くらいになるのが目安です。
サンプリングレートとビット深度
- 音楽制作・歌ってみた:48kHz / 24bit(または32bit float)
- CD規格:44.1kHz / 16bit
- 動画用:48kHz / 24bit
基本的には 48kHz / 24bit に設定しておけば間違いありません。32bit float対応のレコーダー(ZOOM F3など)なら、音割れの心配がほぼなくなります。
録音テクニックとマインドセット
機材だけでなく、録り方で音質は変わります。
マイクとの距離(近接効果)
ダイナミックマイクは、口を近づけるほど低音が強調され(近接効果)、音量が稼げます。
- ナレーション・ラジオ:拳1つ分(約10cm)。低音が響く「イケボ」になります。
- 歌:拳2つ分(約15〜20cm)。声を張り上げる場合は少し離れます。
ポップガードの重要性
「パピプペポ」などの破裂音(ポップノイズ)を防ぐために、ポップガードは必須です。 マイク付属のスポンジでも良いですが、金属製や布製の別売りポップガードを使うと、よりクリアに録れます。
「静寂」を作るマインドセット
- 録音時はエアコンを切る:夏場は「冷房で部屋をキンキンに冷やしてから、切って15分録る」の繰り返しです。
- 深夜・早朝を避ける:近所迷惑にならないよう、常識的な時間に録りましょう。逆に、外の交通量が少ない時間帯(深夜)を狙うのも手ですが、自分の声が騒音にならないよう注意が必要です。
- 冷蔵庫のコンプレッサー音:意外と拾います。キッチンのドアは閉めましょう。
予算別:宅録環境セットアップ例
最後に、予算に合わせた具体的な機材構成案を紹介します。
【予算1.5万円】とりあえず始めるコース
- マイク:Classic Pro CM5S(ダイナミック) - 2,000円
- I/F:Behringer UM2 - 6,000円
- 吸音:クローゼット活用 - 0円
- スタンド:卓上スタンド - 2,000円
- その他:ケーブル、ポップガード - 3,000円
- 合計:約1.3万円
【予算5万円】高音質配信コース
- マイク:Shure MV7+(USB接続) - 4.5万円
- 吸音:リフレクションフィルター(TroyStudio) - 5,000円
- スタンド:マイクアーム - 5,000円
- 合計:約5.5万円(I/F不要)
【予算10万円】プロ級歌ってみたコース
- マイク:Shure SM7dB - 7.7万円
- I/F:MOTU M2 - 3万円
- 吸音:吸音材(壁貼り) + リフレクションフィルター - 1.5万円
- 合計:約12.2万円
【予算20万円】最強宅録コース
- マイク:Neumann TLM102(コンデンサー) - 10万円 ※吸音対策前提
- I/F:RME Babyface Pro FS - 13万円
- 吸音:本格的な吸音パネル(Very-Qなど) - 5万円
- 合計:約28万円
まとめ:環境は「工夫」で作れる

防音室がなくても、以下の3つを守れば、リスナーに「音いいね!」と言われる環境は作れます。
宅録環境構築の鉄則
- ダイナミックマイクを使う:ノイズを拾わないことが最優先。
- 吸音を徹底する:服、布団、カーテン、リフレクションフィルターで「響き」を殺す。
- ノイズ源を断つ:録音時はエアコンを切る、PCを遠ざける。
高い機材を買う前に、まずはクローゼットを開けて、その中にマイクを立ててみてください。その音質の変化に驚くはずです。 あなたの素晴らしい声を、クリアな音で世界に届けましょう!
画像クレジット
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